第2章【6】(1)長く住み続けて 語り部:西片秋子(大正7年生)
この家は高橋ルイゼさんというドイツ人の方から義父が譲り受けた、大正10年に建てられた洋館です。
当時でもこの辺りには洋館が数件あり、特に安田さんのお家(現新日鉄社宅)は大きく立派で、屋根の形が印象的でした。
私は終戦後の昭和21年に北京から引きあげてきて以来この家に住んでおります。ドイツ建築で基礎にはレンガが使われており、80年近く経った今でも歪みはありません。水回りの床は張り替えましたが、そのほかは当時のままなんです。
窓は分銅とロープを利用して上下に開き、具合が悪くなっても直すのに手間がかかりますが、時折息子がやってくれます。
各部屋に出入りする人の顔が見えるつくりで、誰が帰ってきたのかわからないなんていうことはありませんでしたよ。
部屋数が多く、主人の弟たちが独立してからは、多いときで4人の学生さんを下宿させていました。みんなで一緒に食事をいただきながら、他人への気遣いや礼儀作法などを先輩から後輩へ伝授し、とてもいい関係でした。
また、庭には大きな樹がたくさんあって、「ターザンごっこさせて」とか、「セミ捕りさせて」と子どもたちが遊びに来たりして賑やかだったんですよ。